
舞台:「狂人なおもて往生をとぐ 〜昔、僕達は愛した〜」。
作 :清水邦夫
演出:熊林弘高
キャスト:
出:福士誠治
出の姉・愛子:緒川たまき
弟・敬二:葉山奨之
敬二の恋人めぐみ:門脇麦
出の母はな:鷲尾真知子
父善一郎:中嶋しゅう
ストーリー:
精神に異常をきたしている長男・出が、自分は売春宿に住んでおり、母・はなは宿の主人、姉・愛子は売春婦、父・善一郎と弟・敬二は客、自身は主人のヒモだと思い込んでいることから、出の妄想にあわせて毎晩「売春宿ごっこ」をする家族を描いた作品。
ある日、敬二が恋人・西川めぐみを家に連れてきたことから、「売春宿」の面々で「家族ごっこ」をすることになり、家族を演じるうちに一家の隠された忌まわしい過去が次第に露になっていく…。

間に15分の休憩のある2時間の舞台です。
舞台上は、6名の役者さん・人間1人の入れる大きさの柱時計・天井からぶら下がる1つの丸いライト・造花・食器。
シンプルな設定のワンシチュエーションな設定の中、
1人の異質な存在(めぐみ)の来訪により、
ゆるゆる進んでいた時が、一転!一気に時間を遡ります。
6人の上手な役者さん達の手腕により、同一空間を、現在・過去・未来へ…。
内容は、もの悲しく、時の荒波に呑み込まれて消えてしまったひとつの家族の話。
先般観たハムレットには、まだ救いがあったけれど、こちらは…、とても切ない。
社会というコミュニティから退けられ、なんとか保ってきた家族という社会が崩壊してしまうラストに、しんみりしました。
狂人が狂っているのか、狂っている人を守っている正常な周りが狂っているのか、段々分からなくなってくる不思議な世界。
親から子へのエゴと愛、子から親への甘えと愛。
狂った出の始めた架空の社会を演じる事で保ってきた家族というバランス。
見ないように考えないようにしてきた過去の忌まわしい出来事が、弟の結婚による新しい家庭の形成をきっかけに呼び起こされて、結果、「無」になって…。
お互いにほのかには残っていた「家族への愛情」が、天国では実を結んで欲しいと思った作品でした。
必要最小限のライトの色の変化や効果音と役者さん達の演技で、心境の変化等、とてもわかりやすかったです。上手な方達が揃うと、ほぼ「無」の状態でも、ちゃんと「景色」が見えるんだなぁ…と。
門脇麦ちゃん、とてもインパクトがあり、他の5人と一人だけ持ってる雰囲気の違う(←一般的な社会人)を上手に演じていました。
緒川たまきさん、透明な底なし沼のようでした。
正常と異常の狭間(弟への恋愛感情?)で、壊れていく様子、ゾクゾクしました。
鷲尾真知子さんと中嶋しゅうさんが、しっかり土台を作って進行。
役の上でも作品構成の上でも、父と母でした。
福士誠治君、やはり上手い。
精神の変な部分と時折戻る正常との緩急のつけ方や、佇むだけで伝わってくる心境に、心の中を振り回されながら観ていました。
舞台から床にドンッと落ちる場面は、大丈夫かな?と、心配に。。。
セミヌードは、とっても色っぽかったです
